「ロング・グッドバイ」

2014年05月18日

「ロング・グッドバイ」 最終回 早過ぎる

『私はいったい何を失くしたのでしょうか。
時代と月日に押し流されるうちに・・・』

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 日本統治時代の台湾にいた少女時代の亜以子(中村ゆりか)は
松井誠一(原田保)(柾木玲弥)に恋をした。
その恋は実ったが、親からは祝福されなかったため、恋を貫こうと二人は出奔した。

「それはそれは貧しい夫婦でした。
だけどね、若い娘なんておかしなもので愛する人がそばにいれば、
それだけで十分に幸せなんですの。
私達、子猫のように寄り添い温めあって暮らしました。
たったひと月」

 誠一が召集され、結婚生活は終った。
戦争で行方不明になった誠一のことを亡くなったして諦めるしかなかった。

「ところが再会されたんでしょう?2年前のパーティで」磐二(浅野忠信)

 2年前の原田志津香(太田莉菜)の結婚披露パーティで、
亜以子(小雪)は、その夫となっている誠一と再会した。

「なぜ、やりなおさなかったんです?」磐二
「・・・・・まさか。
原田志津香様の飼い犬のような男は、あれはもう私の愛していた
あの人ではありませんでしたから」亜以子
「でも原田保はあなたのことを愛していた」
「私もすでに上井戸の妻でしたわ」
「関係ありませんよ。あなたを愛していたからこそ、
志津香殺しの罪をかぶったんじゃありませんか。
確かに飼い犬と言われれば飼い犬です。
しかしそれは、奴なりに必死で手に入れた生活であり、生きるための手段だったんです。原田保はあなたのために、そのすべてを投げ打って罪をかぶって死んだんですよ?
せめてそのことをあなたは認めてやるべきだ。
でなければ奴はあまりにも浮かばれませんよ」

 羽丘(田口トモロヲ)を伴った磐二は「原田志津香殺人事件」と「上井戸譲治殺害」の真実を突き付けるために亜以子を訪ねた。
しかし、磐二が万感の思いを込めて出したカードはあっさりと捨てられた。
美しい涙を流しながら亜以子は夫の譲治(古田新太)が殺害し、原田保がその罪をかぶって台湾に逃げたと告白した。

 亜以子は本当にそう信じているのかもしれない。
夫は原田志津香との情事に溺れていたが、終らせるために殺した。
そして、自分を守るために原田保が夫の罪をかぶってくれたと。
でも、その告白で磐二は自分の推理が正しいと確信した。

 ショックを受けるかと思われた羽田はウキウキと楽しそうでした。
「いや〜私としては正直、文学的興奮を禁じ得ません。
ありゃあ、稀代の悪女だ。
それはそれで夢があるってもんですよ。
『女は未亡人で現代を生きるファム・ファタール』・・・・
こりゃあ売れるぞ!どいつに書かせるかな」

 羽田は詩人ではなく商売人でした。
恋に代わるものをあっさりと見つけたようです。 

土曜ドラマ ロング・グッドバイ オリジナル・サウンドトラックロング・グッドバイ (ハヤカワ・ミステリ文庫 チ 1-11)

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2014年05月11日

「ロング・グッドバイ」 第4回 墓穴にて

 さて・・・磐二(浅野忠信)は、何とか怪物飲みこまれずにすみました。
磐二が呼ばれたのは確認のためだった。
これ以上、「原田志津香殺人事件」に関わるなということ、
自分は政界に繰り出し、着実に強大な権力を手にするつもりだということ、
その邪魔をする奴は容赦しないということ・・・
そのためなら娘の死の真実など喜んで葬るということ。

 この男ならやるだろう・・そう思わせる強い意志とエネルギーが感じられました。
善だけでなくそれを上回る悪の。
その源は強い怒りと憎しみ・・・
原田平蔵(柄本明)の野心は戦争に負けたことで味わった屈辱への復讐のようでした。
その怒りは権力を持っていた者だけでなくすべての人間に向けられるほど強い・・・

「戦争で負けて、この国にはどでかい穴が開いた。
その穴をこれからこのテレビジョンが埋める。
かつて我々が信じるべきとされていたもの。
仁義、礼節、忠誠。そういう何もかんもがあの戦争で全て灰になった。
大衆どもにはそれが不安でたまらんらしい。一種の癖だ。
みんな血眼になって次にすがるべきものを探してる。
だが、わしに言わせれば癖そのものを直せばいいのだ。
詮ない事に思い煩うのをやめ、ただただテレビジョンを見る。
プロレスに興奮し、音楽と共に踊り、落語に笑えばいい。
頭を空っぽにするのだ。ただ空っぽに。
そこにテレビジョンという風が流れていく。
悩みを忘れ、笑いと興奮に満たされ・・・」平蔵

「いやいやいやいや!正気ですか?」磐二
「何だと?」
「この国の頭を空っぽにして回る?
正気でそれが自分の使命だと?」
「悪いか?ゴミが詰まるよりゃ空っぽの方がずっとマシなんだよ」
「冗談じゃない。
飢えた子どもに酒を与えるようなもんですよ。
なるほど苦痛は紛れるかもしれない。
頭という頭が、すぐに空っぽになるんですからね。
ただ、それは人間にとって、この国にとって最も大事なものを奪い、
潰して回るという事じゃありませんか!」

うるせえよ!そら!そのお前の頭こそゴミためだってんだよ!
ご立派なご高説で腹が膨れんのか?
お前のような男こそ100人いたってガキ一人食わせられねぇんだよ。
能なしのクソったれは今すぐこの国から追放してやろうか?

ああ?バカ野郎!

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matakita821 at 11:26|PermalinkComments(4)TrackBack(6)

2014年05月04日

「ロング・グッドバイ」 第3回 妹の愛人

 いろんな人間が増沢磐二を惑わしていく。
否応もなく事件の渦中に巻き込まれ冷静さを失っていく磐二の姿が描かれました。
増沢磐二危うし!
探偵として、男として、彼はどんな真実を見出すのでしょうか。
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 ヴィクターズに現れた高村世志乃(冨永愛)は弁護士の遠藤(吉田鋼太郎)と父の秘書との会話から磐二(浅野忠信)に興味を抱いたらしい。

「ねぇ、あなたはなぜ原田保の無実を信じるの?
悪いけど私は原田保が殺したんだと思ってる」世志乃
「その理由は?」磐二
「姉の私が言うのもなんだけれど、そうされてもしかたのないぐらい
志津香はひどい妻だったの。
新聞には『お座敷犬』なんて書かれていたけれど、
犬だってあんな飼い主は憎むでしょうね。
原田保は確かに妹の男の中ではマシな方だったかもしれない。
礼儀正しいし優しいところもあった。
でも、ただそれだけの男よ。
どうしてあなたは彼にそんなに肩入れするのかしら?」

「まぁ、誠実な男だった。
今どき珍しいのは、私よりむしろ奴の方だった。
そういう人間に対しては、こっちだってそう不誠実ではいられない。
ただ、それだけですよ」
「なるほど。
私ね、嫌な女といる時の何が嫌って、自分まで嫌な女になる事なのよ。
鏡のようなもの。
あなたは原田保と一緒にいる時は一番誠実で良き人間でいられたんでしょうね。
そういう相手は確かに大事に思わずにはいられないものだわ」

 それは原田保にとっても同じこと。
良き人間であろうとした保は増沢磐二という人間を求めた。
でも彼は多分、磐二よりも大切な人を選んだのだ。

 穏やか会話の時間は磐二に父・原田平蔵(柄本明)を侮辱されたと思った世志乃の平手打ちで終った。
収穫は正虎(やべきょうすけ)は原田平蔵とは繋がっていないと分かったこと。

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2014年04月27日

「ロング・グッドバイ」 第2回 女が階段を上る時

『その朝、増沢磐二は気付いた。
どうやら鼻の骨が折れている。痛みは強くない。しかし 確かに違和感がある。
医者に行ったものか。様子を見たものか。
そもそも、なぜ骨は折れたのか。顛末を説明する』


 てな感じで、今までのストーリーが語られるところからスタート。
いや〜滝藤賢一さんの声がいいね。
どこかしゃがれているような感じでハードボイルドにぴったりだよ
(お前、何でも褒めてるだろ!って言われそうだけどさ)
そして事件の流れを把握しつつ客観的に伝えられる存在、森田という人選もいい。
今回も気持ちよく世界に連れて行ってくれます。
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 釈放され、探偵稼業に戻った磐二(浅野忠信)の元に
「不快な電話と不可解な客があった」。
電話の主は原田平蔵(柄本明)と繋がっている弁護士・遠藤(吉田鋼太郎)。
要するに「原田志津香殺人事件」と保(綾野剛)の死にこれ以上関わるなとのこと。

 そして客は、戦後間もなく闇市を牛耳っており、現在は賭場とキャバレーを仕切っている正岡虎一(やべきょうすけ)。通称・正虎。
正虎は戦争中保に命を救われ、「一生返されへん借りを作ってもうた」話をし、戦後「ボロッボロのガリッガリになって脚が片っぽいてもうとった」状態の保に再会したこと。
そんな彼に一生賭けて借りを返そうと思っていたのに、肝心の時に保が頼ったのは「我のようなカス」だったと一方的に語った。

 こちらも言いたかったことは結局・・・
「ええか、貧乏人。金輪際この件に首突っ込むなよ。これ以上下手な事してみい。
我もここ(頭)自分で撃つはめになんど」だった。

 正虎の回想の中の、復員兵姿のまたまた捨て猫のような姿の保と、そんな保をがっしり抱きしめる正虎。
その後の森田の調べで二人が一緒に部隊に所属していた記録は見つからなかったが、二人の間に特別な繋がりがあったと思わせる場面でした。
城崎保という男の謎に包まれた人生のある時期を正虎は知っている?

 念のいったことだったが、お蔭で磐二にはあの事件には裏があること、
そして原田平蔵が関わっていることを確信した。
その原田平蔵は政治家への階段を一段一段着実に上って行こうとしていた。

 その帰り・・・やっと探偵と猫が同じ画面におさまりました。
フィリップ・マーロウと言えば猫でしょうよ〜( ̄∇ ̄)ニヤッ 
わたしゃ、いつ出てくるのか楽しみにしてたのよ〜
市場の卵を入れてある箱の中にちんまりとおさまっているトラネコ。
その猫をなでている磐二に主人は猫のせいで雛が孵っちゃうとボヤいており、
磐二はその卵を購入。
でも、依頼人と電話で話している時に落下。
多分、磐二の口におさまることはなかったと思われ・・・

 も〜そのまま猫ちゃんの方をもらっていきなさいよ〜
トラネコの再度登場を希望す!

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matakita821 at 14:40|PermalinkComments(0)TrackBack(5)

2014年04月20日

「ロング・グッドバイ」 第1回 色男死す

 いや〜カッコよすぎるべ!
なにもかもが完璧に創りこまれとる。
まずその映像から、そして大友良英さんのドラマチックな音楽に誘われ、
一気に「ドラマ」の世界に引き込まれました。
この世界観を自分の拙い表現力でどうこうできるとは思えないけど、
書かなきゃ!と思わせてくれるドラマでした。
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 ある雨の日、探偵の増沢磐二(浅野忠信)は女の車から追い出され酔いつぶれている男(綾野剛)を拾った。
女は売れっ子女優の原田志津香(太田莉菜)。
志津香は倒れている男に「手切れ金よっ!」と財布を叩きつけ去って行った。
ドアボーイに支えられ何とか立ち上がり、男はふらふらと歩き出したが、すぐにまた倒れ込んでしまった。

 雨に打たれ続ける男を放っておいても良かったのだが・・・・
磐二は彼を自分の事務所に連れて行った。

 目を覚ました男は丁寧な口調で感謝を伝えたかと思ったら、自嘲気味に助けてくれた磐二に呆れ、怒り出した。
「おかしな人だな。
何の得もないのに酔っ払いを拾ってきてタダでコーヒーを飲ませるなんて。
雨の中にそのまま寝かせておけば、今夜、この世のクズが一人減ったんだ!
むしろ、その方がずっとこの世のためだったのに・・・
お気付きですか?あなたって人はね、ホント、全くどうかしてますよ!」男
しつこいな!
何をそんなにひがんでるのか知らんが自分の見てる世界が全てだと思うな!
別に何の得もなくてもクズを拾ってきて、コーヒーを飲ませたいと
思う人間だっているんだよ!」磐二

 その言葉に涙を流した後、男は磐二が貸した傘を手に事務所を出て行った。

 いや〜帽子とコートと傘で輪郭と影だけ見せていた探偵が粋な音楽と共に登場。
探偵の仕事ぶりを紹介した後、初めてその顔が見える。
煙草が似合う、凄みがありながら柔らかい、どこかミステリアスなムードを漂わせる
大人の男。
そんな男が捨て犬と出会った。

 どこか少年の面差しを残したような、保護本能を掻き立てずにおかない綾野さん・・・( ̄w ̄)
いい家で育った血統書付の猫が凋落で住処を失ってしまったような上品なたたずまいがあります。
見知らぬ男の無償の親切に涙せずにはいられなかった男は今までどんな惨めな思いを抱えて生きて来たのか・・・

 磐二は男の名を新聞のゴシップ欄で知った。
『お騒がせ女優 原田志津香』三番目の夫・原田保。
紙面には
『志津香好みの優男。だが、ご多分に漏れず容姿だけが取り柄の甲斐性なし』
と書かれていた。

 そんなもんを読んでいると、当の保が傘を返しに来た。
新聞を隠そうと心ここにあらずの磐二が自分のことを迷惑がっていると勘違いした保はすねて帰ろうとしたけど、磐二にバーに連れて行ってもらい機嫌が直りました。

 この「VICYOR’S」というバーも落ち着けるいい雰囲気でしたなぁ・・・
保は傘を返すついでに仕事が決まったと報告に来たんだけど、磐二に会いたかったんでしょうね。
この初めて出会った本物の大人に。

 磐二が飲んでいたのはギムレット。
「見ていて下さい。そのうち僕もあなたのような人間になりますから。
あなたのような・・・」
と言った後、保も同じものを頼みました。

 原作のままなんだろうけど、このドラマでは小道具が利いている。
事務所で淹れる珈琲、気づけば手元にある煙草とその煙・・
お酒、仕立ての良さそうなコートと帽子・・・
それらがすべて人物とシチュエーションにぴったりとハマっている。

『磐二は保の連絡先はおろか離婚後の名字さえ聞かなかった。
それでも保は、その後も度々事務所に現れ・・・
ヴィクターズで交互に酒をおごり合うのが彼らの奇妙な習慣となった』

 
土曜ドラマ ロング・グッドバイ オリジナル・サウンドトラックロング・グッドバイ (ハヤカワ・ミステリ文庫 チ 1-11)

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matakita821 at 12:34|PermalinkComments(10)TrackBack(9)