「探偵の探偵」 第6話 深まる謎・・・死神へと続く鍵!出会うはずない二人「探偵の探偵」 第7話 真相解明!夜明けの大乱闘!愛しき刑事に捧ぐ涙

2015年08月17日

「トランスアメリカ」 2005年 米 監督ダンカン・タッカー

 「家族」って考えるとすごく重いけど、必然的に出会った一人の人間とゆっくりと理解しあうと思うと、お互いにちょっとだけ自由になれるのかもしれない。

 誰かが言った。
『理解するということは相手と自分の違いを理解することだ』。
どんな相手でも自分と違いすぎる価値観の人間をあるがままに受け入れるのは難しい。
でもケンカしても罵り合っても、まっすぐに向き合える一瞬があればいいのかも。
めんどくさいけど捨てられない。知りたいけど知りたくない。
好きとは決して言えないのに、いつも心に引っかかっている。
家族って常にそういう矛盾を抱えているんだろう。
そんなことを思った映画でした。

トランスアメリカ [DVD]

 ロサンゼルスで一人暮らしをしているブリー(フェリシティ・ハフマン)は戸籍上はスタンリー・シュパックという男性だがトランスジェンダーで女性として生きている。
レストランの皿洗いとテレフォンアポインターの仕事で手術費用を貯め、一週間後に性別適合手術を受けることになっていた。

 そこに突然、息子のトビー(ケヴィン・ゼガーズ)から電話がかかってきた。存在をまったく知らなかったが学生時代に一度だけ関係を持った女性の子供らしい。
ニューヨークの拘置所にいるトビーは保釈金を出して欲しくて母親から話を聞いていた父親に電話をしてきたのだった。

 寝耳に水のブリーは無かったことにしようとするが、親友でセラピストのマーガレット(エリザベス・ペーニャ)に精神的な問題を解決しなければ手術の同意書にサインをしないと言われ、しかたなく息子の元へ行く羽目に。
保釈金はカエルを盗んだだけなので1ドル。薬物を所持していたので拘留されていたらしい。
初めて息子と対面するもブリーはもちろん父親だとは名乗れず教会の者だと言ってしまう。

 荒んだ雰囲気はあるけど甘いマスクのトビーはそんな悪い子じゃなかった。
信心深いし、映画スター(ポルノだけど)になるという夢も持っている。
父親と一緒に写っている母親の写真を大切にしていた。
母親が亡くなってから仲の良くない義父の元を飛び出し一人ニューヨークに来て同じような連中と住み体を売ったりして生活していたらしい。

 一刻も早くトビーと別れたいブリーなんだけどマーガレットに説教され、しかたなく義父がいるカリクーンまで彼を連れていくことにする。
という訳で父であることを隠したブリーと本当の息子だと知らないトビーの車での旅が始まる。

 ロードムービーの良さは重たいテーマでも、広大な景色と共に進んでいくからこちらも何かオープンな気持ちで展開を見守れること。
いろんな意味で危なっかしいドライブだけど、常に開放感がある。

 ブリーはのど仏も取って豊胸手術もしているしホルモン剤も飲んでいるので外見はどう見ても女性。
「女性らしく」あろうとするところで逆におや?と思うぐらい。その微妙なニュアンスをフェリシティ・ハフマンは繊細に人間的魅力と共に見せてくれる。

 親子二人旅に見えるブリーとトビーはケンカをしながらも、しかたなく譲歩し合い少しづつお互いのことを知っていく。
母親の死が自殺であり、義父がトビーに性的虐待と暴力を行ってきたと知ったブリーは彼をロサンジェルスに連れていくことにする。

 ここらあたりから二人の関係が親戚のおばさんと甥っ子みたいなほんのりいい感じになるんだけど、ブリーが外でおしっこした時に男性だとバレてしまいちょいと悪化。でもトビーは嘘をつかれていたことが嫌だっただけでブリーの優しさには感謝しているんだよね。ヒッチハイクしてきたヒッピーの男の子に車と財布を盗まれ無一文になった時はブリーに内緒で体を売ってお金を作ったりする。

 その後、途方にくれていた二人は親切な牛飼いのカルヴィン(グラハム・グリーン)と出会い、ブリーの実家まで送ってもらえることになった。

 このカルヴィンがホントいい人でほっとしたよ。
わたしゃ、一瞬サイコキラーかなんかで善人装って二人を家で惨殺しようとしているんじゃ・・って疑っちまったよ。家に泊めて食事と衣類まで用意してくれて、別れ際に自分の親友の遺品であるカーボーイハットをトビーにプレゼントしてくれたぞ。

 温かくて堂々としたカルヴァンにトビーは父親のイメージを重ねていたんじゃないのかな。
そしてカルヴァンの前で頬を染めているブリーは初々しい心根の素敵な女性だったわ〜
二人がいいムードになって、トビーはちょいジェラシーというか複雑な気持ちになっていたような・・・

 さて、お金を借りるためにしかたなく実家に来たんだけど、ブリーにとってはできれば二度と帰りたくない場所であり、家族は会いたくもない人たちだった。特に母親は女性としてのブリーを認めようとせず過去に強制的に精神病院に送り込んだこともある。そのため彼女は自殺未遂をしていた。

 妹のシドニーは女性になった兄に驚いてはいるけど受け入れてくれている。
父親も戸惑ってはいるけど拒否してはいない。
母親だけが未だにブリーに息子であることを求めている。
それがブリーにとってどれほど苦痛であるかもわかろうとしない。

 ブリーが求めているのはあるがままの自分を受け入れてほしいということ。
これは性同一性障害に関わらず、誰もが願うことだと思う。
もっとも認めて欲しい存在である親から違う自分になるよう命じられた子供は拠り所を求めさすらい続けることになる。

 母親は最初はトビーのことを薄汚い不良少年扱いしていたんだけど自分の孫と知ると手のひらを返すようにかわいがり始め、彼を引き取るとまで言いだす始末。
「家庭」を求めているトビーは揺れておりますョ〜

 さて、ブリーの正体は思わぬことからバレてしまう。
トビーがブリーに愛情を感じプロポーズしてきたもんだから話さずにはいらなくなったのさ〜
真実を知ったトビーはブリーを殴り、お金と共に消えてしまった。
親からお金を借りて何とか手術の日に間に合ったブリーは念願の女性になる手術を終えるんだけど、傷ついたトビーを思うと喜びどころか涙しか出てこない。

 それからどれぐらい時間が流れたのか・・・
教師になるため中退した大学の勉強を再開したブリーの元にポルノ俳優として働いているトビーが現れる。
近況を聞いたブリーはカルヴァンのカーボーイハットをトビーに渡しました。
ラスト、カーテンの影から見える二人はソファに並び楽しそうにビールを飲んでいました。

 父親なのか母親なのか恋人なのかわからないもやもやする存在だけど、トビーにとってブリーは特別な人。
孤独だった彼に、甘えて悪態をつけるような相手ができたことにほっとしました。
それはグリーにとっても同じ。
「家族」と呼ぶのはまだ怖いけど、この不思議なもやもやを二人は自分自身を大切にするようにゆっくりと育てていくんだと思う。

 思いがけずおもしろい映画でした。
見終わった後、少しだけ身軽になれたような気がしますぞ。
 
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matakita821 at 20:49│Comments(4)TrackBack(1)映画 

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1. トランスアメリカ  [ 象のロケット ]   2015年09月10日 10:59
男であることに違和感を持ち、肉体的にも女になるための最後の手術を控えるブリーの前に現れた少年トビー。 トビーは、17年前ブリーが“スタンリー”という男性だった頃にできた実の息子。 二人は、ひょんなことからNYからLAへの大陸横断の旅に出ることになる。 ブリーは

この記事へのコメント

1. Posted by ヨーコ   2015年08月18日 07:04
見た!見た!
全然期待していなかったのに面白かったなぁ〜。
先日テレビでアイバンがゲイ仕分けをしていて
性同一性障害が一番大変なんだなぁって
今更ながら改めて認識した所だったから
余計にブリーが切なかったなぁ。
カミングアウトすると、本人を置いておいて
家族が一番の悲劇の主人公みたいに振る舞うのが許せないよね。
ブリーの母親の泣きわめき方とか嫌だった〜。
トビーも複雑な子で複雑で切ないし
最後があぁいう終わり方で良かったよね〜。
2. Posted by きこり→ヨーコさん   2015年08月18日 23:17
>全然期待していなかったのに面白かったなぁ〜。
私もさ〜トランスジェンダーの女性の話だってぐらいしか知らなかったんだけど
最初から引き込まれたよ。
>カミングアウトすると、本人を置いておいて
家族が一番の悲劇の主人公みたいに振る舞うのが許せないよね。
ホントだよね。カミングアウトするってすごい勇気がいることなのに。
てか、親だったら自分の子供が性別で苦しんでいるってわかると思うんだ。
それを認めようとしないっていうのは、いったい何のためなんだろうって思うよ。
トビーとブリーがお互いに親子だって認め合うのは、今までの状況を思うと
簡単ではないと思うけど、こうやってなんとなく会ってとりとめのない話をしあうだけでいいと思うんだ。いいラストだったよね。
3. Posted by 紅緒まま   2015年08月20日 10:29
おおお、これまたにゃつかしい映画です。
『デスパレートな妻たち』のおひとりが主役でしたね。
・・・・内容をしっかり覚えていませんが、面白かったと記憶してます
性同一障害、ほんと苦しまれるでしょうね。
ありのままの等身大のヒトを愛してくれるのが神様のはずなのに・・・同性愛、性同一障害、許さないのが一部のキリスト教です。私も一応、クリスチャンですけど・・・
同性愛はもちろん認めるし、進化論信じてる私はしょせんなんちゃんてクリスチャン以上にはなれないんでしょうけど
4. Posted by きこり→紅緒ままさん   2015年08月21日 06:48
>『デスパレートな妻たち』のおひとりが主役でしたね。
そうだったのですね〜!「デスパレート」は見たことないのですが
ド派手な人たちばかりの印象でしたが、ブリーはかなり地味なビジュアル
でしたもんね。でもそのひっそりと女性として穏やかに生きていこうと
する姿に心の傷の深さが伝わってきて、じーーんとしてしまいました。
>ありのままの等身大のヒトを愛してくれるのが神様のはずなのに・・・
そうですよね。人間が一番望んでいることだと思います。
そこを親に否定されたら、人生が変わってきますよね。
宗教は難しいですね。持っている人には支えであっても、そのことが回りの人間に苦しみを与えてしまうこともある。もっと単純な世界になって欲しいわ〜
本当に大切なものだけを尊重しあえたら人は寄り添いあえるのかもしれない・・
なんて見終わった後に思いました。

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