「三匹のおっさん〜正義の味方、見参 !! 〜」 第5話 芸能スカウト詐欺に御用心!?「嘆きのピエタ」 2012年 韓国 監 キム・ギドク

2014年02月16日

「過去のない男」 2002年  芬/独/仏 監 アキ・カウリスマキ

 「ル・アーブルの靴みがき」でアキ・カウリスマキ欲が高まったので見てみました。
やっぱり間違いないワ。
一貫して淡々と描かれる人々の生活がじ〜んと沁みてきて、見終わった後に前向きになれる。不思議だけど、好きな世界だな〜
HPはこちら

 夜行列車に乗り、ヘルシンキに着いた男が公園で夜が明けるのを待っていたら強盗にボッコボコにされてしまう。
病院に運ばれるも手当の甲斐なく死亡。
と、思ったら生き返った男は病院を抜け出し倒れていたところを川べりのコンテナに住む一家に救われ命びろい。
男は殴られたせいで記憶喪失になり、自分の名前も、どこから来たのかもわからなくなっていた。

 男を助けてくれた一家もいうなれば底辺で生きる人ですョ。
夫・ニーミネン氏(ユハニ・ニユミラ)は働いているけれど週二日のみ、子供も二人いるし、食べるものだって豊富にある訳じゃない。
それでも夫は当たり前のように男を助け、面倒をみてくれる。
奥さんのカイザ(カイヤ・パリカネン)は「恵まれているの。住むところも夫に職もあって」と明るく朗らか。

 周りには住む場所のない者や体が悪くて働けない者もいっぱいいる。
でもこの映画からは悲惨さは感じられない。
お互いにさりげなく助け合っているし、なければないでやるだけさというような、あるがままを受け入れているが故の清々しさとお気楽さのようなものがある。

 ニーミネンは男に言う。
「記憶がなくても心配ない。人生は後ろには進まん。進んだら大変だ」

 記憶って宝物になる場合もあるけど、お荷物になる時もある。
偶然なくしてしまった記憶だけど、なければないで生活を作って行けるもんで・・・

 男は警官のアンティラ(サカリ・クオスマネン)から凍死した男が住んでいたというボロいコンテナを借りて住むことになった。
アンティラの知り合いの男が無料で電気を引いてくれ(違法)拾ったジュークボックスを直してもらったおかげで音楽も聞けるようになった。

 この電気引いてくれた男との会話がイカしている。
「礼には何を?」男
「俺が死んだら情けを」
お互い納得。これがアキ・カウリスマキの世界さ〜

「過去のない男」オリジナル・サウンドトラック過去のない男 [レンタル落ち]



 そしてアンティラとの会話では何度もクスリとさせてもらったぞ。
家賃を期日までに払わなかった男の前にハンニバル(食人鬼)という名の犬を連れてきて『かかれ!』って脅すんだけど、その犬が普通にかわいい中型犬で獰猛さゼロ。
「ついている男だ。たいていは噛み殺される」アンティラ

 可憐な表情を見せるわんこはアキ・カウリスマキ映画に出演している一族犬のタハティで、
この映画出演でカンヌ映画祭「パルムドック」を受賞しております。(* ̄m ̄)プッ
アンティラは出張に出るってんで「手なづけてみろ、今度こそ噛み殺すぞ」ってハンニバルを置いていくんだけど、すぐに男に懐いちゃってるという。
結局そのまま男の犬になっちゃうのよね〜

 記憶を失っても煙草を吸う習慣は失われなかったようで、男は常に紙巻煙草を吸っている。
煙草の香り、音楽、そして犬がいたら、もう何もいらないやね。
いやいや・・・もうひとつあった。

 男はニーミネンに救世軍の炊き出しに連れていってもらい、そこで働いているイルマ(カティ・オウティネン)と出会いました。
愛想のない女ですが、なんかお互いに波長があったんだろうね。
彼女のおかげで男も救世軍で働くようになり、お付き合いも始まりましたョ〜

 カウリスマキ監督の映画に出てくる男女は恋になれていない、でも出会った恋を大切にゆっくり育てていく人達です。
その様子が微笑ましくて、適度な距離を感じさせる寄り添い方には美しさすら感じます。

 私、そういうとこに惹かれるのかな〜
会ってすぐに組んずほぐれつみたいな「ナインハーフ」とか「ラストタンゴ・イン・パリ」みたいのは、すげぇな〜と驚くだけで、気持ちが動かされないもんな。やっぱり外人は違うよな〜とちょい引きするし。

 DVDの特典映像のカティ・オウティネンさんのインタビューでアキ・カウリスマキ監督の脚本は今の若い人が使うような言葉ではなくて丁寧なきちんとしたものだって言ってたけど、そういうとこも小津安二郎監督の影響なのかね?
そこにうまい具合にあっさりした味付けのお笑い要素も加わって独特の世界になるというか・・・

 イルマの仕事が終わるのを外で待っていた男は、イルマが出てくるといかにも掃除をしていたようにほうきを動かし始める(コントか! ゞ( ̄∇ ̄;))

「送っていこうか。近頃はどこも物騒だ」男
「近くなの。一人で平気よ」イルマ
「分かってる。実は自分のためだ。夜道が怖い」
「でも、他人どうしよ」
「職場の仲間だ」
「・・・・いいわ。行きましょ」

 でも、家の近所までしか送っていかせませんよ〜
「ありがとう。心強かったわ」と言ってくれたイルマに男は目にゴミが付いているという古典的手法を用いキスに成功。
「嘘だったのね」イルマ
「すまない。紳士じゃなかった。・・・・・明日も会えるか?」
「もちろん職場で。おやすみ」

 男が去った後、そっとその頬に手をあてるイルマ。
も〜初々しいお二人さんにこっちが照れちゃうわよ。
でも、こんな昭和っぽいラブシーンがいいのよね〜

 「ル・アーブルの靴みがき」の記事ではカティ・オウティネンさんのことを「ブサイク」って書いちゃったけど、この映画ではきれいだな〜って思ったよ。
男とデートを重ね、こころを通い合わせていくうちにどんどんきれいになっていくんだよね。
そうそう、インタビューでは笑ったところが鬼奴姐さんに似ているな〜って思ったぞ。

 男が銀行強盗に巻き込まれる場面も良かった。
口座を作ろうと受付で話し始めたら銃を持った中年のおっさんが脅し始める。
強盗ともちょっと違うんだけど、凍結され引きだすことができない自分の口座に入っているお金をよこせってんだよね。
女性銀行員は慌てず騒がずお金を渡し、男と彼女は金庫室に閉じ込められてしまう。

 とにかくすべてが淡々と進む。
コレがアメリカ映画だったら、銃を持った男が入ってきただけで銀行員はギャーーー!!金を出せって言われたら、ワーワー泣きながらパニックだよ。
この映画じゃ強盗も、押し入られた方も、巻き込まれた客もみんな冷静。
私、パニック映画見てたら(めったに見ないけどさ)いつもうるせえよ!って思ってたから気持ちのいいこと。
そしてこの冷めた空気の中に笑いが自然と生まれるんだよね。

 この強盗のおっさんとは再会して頼まれ事されたりするんだけど、そのバーの壁にマッティ・ペロンパーさんの写真が飾ってあって、嬉しくなったわ〜
おっさんが強盗したのは倒産させてしまった会社の従業員たちに給料を払いたかったから。
おっさんは給料を男に託し、自殺する。
男はおっさんに言われた通り、従業員たちに給料を渡しに行く。

 こういう「善意」と言ってしまうと何か違う、あたりまえのことが普通に描かれるのも好きなところ。
ネコババしようなんて( ゞ( ̄∇ ̄;)オイオイ)かすりもしない。
そういう人たちが主人公なんだよね。

 その後、いろいろありまして、妻から連絡があり男の素性が判明する。
イルマに別れを告げて故郷に帰ることにする。
男は妻がいたんだけど、かなりギクシャクしており離婚の手続き中だったらしい。
その後、ヘルシンキに出稼ぎに出て、強盗に襲われちゃったから連絡が途絶えそのままだったんだと。
離婚は成立していました。

 いや〜よく記憶喪失ものだと記憶が蘇ると記憶喪失中のできごとを忘れちゃって、そこでまた悲劇が生まれたりするじゃん?
コレもそうなるんじゃ・・ってヒヤヒヤしたけど、結局男は最後まで記憶が蘇らなかったようでほっ・・・
元妻に会って、事情を聞いてもそうなの〜?って感じで実感なし。
元妻の新しい恋人に「決闘をするか?」って言われても「理由がない」と応えるしかないさ。

 すっきりしたようなしないような「過去」と決別し、ぼんやりした感傷に浸る男は列車で再びヘルシンキへ。
なぜか食堂車で寿司と日本酒(多分熱燗)を食す男・・・シュールだわ〜と思っていたら、剣さんの歌声が!
予備知識なくこの映画見たんで、あれ〜曲調がCKBっぽいし、声も剣さんみたいなんだけど〜と思っていたら、やはりそうだった。
「ハワイの夜」。
そして他にものっさんの「Motto Wasabi」という曲が使われています(男が借りるコンテナを掃除する場面)。
思わぬ展開にテンション上がっちゃったよ〜

 音楽で他にも印象に残っている場面は屋外のたき火の前での救世軍バンドのライブ。
風も強くてかなり寒そうなんだけど、音楽が人々の心をあたため、パワーを与えているのが伝わってくる。
「悪魔に追われて」。歌詞もおもしろかったぞ。
そしてラストの救世軍バンドの演奏でリーダーさんが歌う「思いでのモンレポ公園」も味わい深かった。

 再会した男とイルマが手を繋いで歩いていく後ろ姿にほっこり・・・
人生は前に進むしかない。その時隣に愛する人がいてくれたら、歩みもまた楽し。
アキ・カウリスマキ監督の世界を満喫しました。
 
こたつ

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matakita821 at 20:05│Comments(0)TrackBack(1)映画 

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1. 過去のない男  [ 象のロケット ]   2014年04月07日 20:19
突然暴漢に襲われ、瀕死の重傷を負い記憶をなくしてしまった男。 彼は港湾のコンテナに住む一家に助けられ穏やかに時間が過ぎていくある日、救世軍の女イルマと出会う…。 ロマンス・ヒューマンドラマ。 ≪人生は前にしか進まない≫

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