すずとなつ それぞれの秋ドラマWスペシャル なぜ君は絶望と闘えたのか 後編 ※ 追記あり

2010年09月26日

ドラマWスペシャル なぜ君は絶望と闘えたのか 前編

 これは、1999年に起きた『光市母子殺害事件』を追い続けた記者・門田隆将さんの『なぜ君は絶望と闘えたのか 本村洋の3300日』を元に作られたドラマです。
 HPはこちら

 1999年4月14日、18歳の秋山譲という男が町田佳織さん(23歳)と11ヶ月の娘夏海ちゃんを殺害するという事件が起きた。
暴行目的で相手を探していた秋山は、排水検査を装い町田家に侵入。
激しく抵抗されたために佳織さんを殺害。
その遺体と姦淫後、泣き叫ぶ夏海ちゃんを床に叩きつけた後、所持していた剣道の小手紐で絞殺。
 犯行発覚を遅らせるために、遺体を押入れと天袋に隠し逃走したが、4日後、逮捕された。

 8月11日に行なわれた第一回公判後、週刊誌記者の北川慎一(江口洋介)と山下真紀子(ミムラ)は、事件を担当した原島刑事(西岡徳馬)を介し、被害者遺族の町田道彦(眞島秀和)と会った。

 公判で初めて事件の内容を知ることができた町田は、『少年法』の壁への憤りを口にしました。
被害者遺族なのに、町田は加害者の名前しか知らされず、どのような状況で事件が起こり、犯人が逮捕されたのか、一切知ることはできなかった。
マスコミも報道しようとしなかった。
 なのに、殺された妻や娘、そして自分の名前や写真、プライバシーを何の了承もなく争うように公開した。
対する加害者については、『少年法』の名の元に、その名前も写真も公表されない。

「何で被害者だけが、こんな目に合うんですか?」町田
「バスに乗り遅れたくないんですよ。我々、マスコミです。
行き先はどこでもいい、取り敢えずバスに乗れ。
そして、問題が起これば・・・恥ずかしい話ですが、こぞってバスから降りてしまう」北川
なぜ君は絶望と闘えたのか―本村洋の3300日 (新潮文庫 か 41-2)

「マスコミは思考停止をしているような気がします。
守られるべきは、被害者と加害者、どっちなんでしょうか」町田
公判中、加害者の秋山は、とってつけたように謝罪の言葉を口にしたが、
反省は微塵も感じられなかった・・・

「なのに秋山は少年法に守られ、『死刑』にならず『無期』だろうと言われています。
もし、それが本当なら、あの男が、秋山が死刑にならなかったら、
僕は、あいつを絶対殺します。

 僕は・・自分を許せないんです。
僕は、佳織を抱きしめてあげることができなかった。
最期のその時まで、僕の名前を呼んだに違いない佳織を、抱きしめてあげることができなかったんです・・・僕はひどい男です。
絶対にあいつを、この手で殺します」町田

 町田の苦痛に満ちた生の声を聞いた北川は、被害者遺族の心の声を町田自身の手で書いて発表するよう説得。
町田は『犯人の名前を実名で書く』ことを条件に引き受けることにし、北川も了承した。
「私は本気です。
正しいと信じたら、勇気を持って突き進む、うちの編集部のモットーですから」北川

 江口さんは、こういう役が本当にうまい。
実直で、強くて静かな闘志を持った男がぴったりくるんだよね〜

 ドラマは、北川と共に目の前の壁に向き合い、苦しみながらも闘い続ける町田の姿を中心に、
そんな彼を支える周辺の人々の姿も描かれる。

 裁判終結後の町田を心配し、思いやる担当刑事の原島、
家族のように彼のことを気にかける職場である大日本製鋼の上司・岡本(佐藤B作)。

 『秋山が死刑にならなかった場合というのは、私にとって想像もできません。
もし、10年ぐらいの獄中暮らしで済むなら、彼はわずか28歳で社会復帰してくることになる。
 一方、私は毎日、絶望と怒り、憎しみ、悲しみの中で生きています。
5年がんばっても、10年がんばっても、いや、一生がんばっても、あの幸せな家庭と佳織と夏海の笑顔は戻ってこないのです。
希望なんて、存在しないのです。
私が秋山に望むのは、『死』だけです』

 少年法の是非を問い、秋山に極刑を求める町田の手記は大きな反響を呼んだ。
それに乗っかるようにマスコミの報道は加熱化。
職場にも記者たちが殺到したため、町田は退職届を提出した。
しかし、岡本は受理しなかった。

「町田君、君は誰よりも辛い経験をした。
そして社会に向かって手記という形で声をあげ、
これからも社会に訴え続ける道を選んだんだろう?
労働も納税もしない人間が社会に訴えても、それはただの負け犬の遠吠えだ。
そうだろう?
町田くん、君は、社会人たりなさい!
君がここにいる限り、我々は君を守ることができるんだ、わかるな?」

 本当にそうだよね。
こんなふうにまだ若い町田をしっかりと繋ぎとめてくれる愛情があったからこそ、
彼は声をあげ続けることができたんだよね。
いろんな力が組み合わさって、ひとつの大きな力へと動いていったんだと感じました。

 しかし、辛い現実と向き合うことは地獄の苦しみだったと思います。
加害者を責め、社会を責め、そして自分を責める。
決して消えることのない怒りと憎しみ、悲しみが大きなうねりとなって町田の心の中を占め、『死』へと向かわせました。

 それを食い止めたのは職場の同僚たち、
そして『犯罪被害者の人権を確立する当事者の会(あすの会)』との出会いでした。

 『犯罪被害者の人権を確立する当事者の会(あすの会)』は、妻を殺害された弁護士の横沢(井川比佐志)を中心に、被害者遺族の立場から法律に働きかける目的で発足された会です。
 加害者は司法によって守られているのに、被害者家族や遺族はどこからも守られず、好奇の目にさらされ、精神的にも経済的にも追い詰められている現状に怒りを感じた横沢は、この活動に『生きる意味を見つけたい』と考えていました。
 
 1999年11月16日、第三回公判。
町田は、入廷前の手荷物検査の際、妻子の遺影と共に入ろうとして、
職員に制止されました。
規則で『手荷物』を持って行くことは許されない。
町田は抗議し、裁判長の説明を求めたが、裁判長からの回答はなかった。

『町田道彦はこの日、立ちふさがる理不尽な壁に自分からぶつかっていくことを決意した。これが、新たに見つけた彼の道だった』北川

「裁判は、裁判官、検察官、被告人、三者でやるもので
被害者に特別なことは認められていない」職員
「それでは、裁判は、誰のために、何の目的でやっているのですか?」町田
 高圧的な職員の態度に立ち向かう町田を、その場にいたマスコミも援護。
しかし、結局、遺影を布で包むなら持ち込み許可という結論を受け入れるしかなかった。

 審理の間、裁判官は一度も町田と目を合わせようとしなかった。
公判後のインタビューで、町田は裁判官への不信感を露にしました。

 司法に人間の情が入り込む余地はないのか・・
ここで、裁判官サイドの声が入ります。
北川の元恋人有紀(木村多江)の叔母広江(草笛光子)です。
広江の亡くなった夫は、裁判官でした。

「裁判官だって、人の子だもの。
被害者の遺影が目の前にあって、それを抱き抱えている家族が目に入ったりしたら、公平な審判なんて下せなくなると思わない?
そういう仕事なのよ、裁判官って・・
傍聴席の遺族の顔も極力見ないようにしてるんですって。
裁判官は判決文だけで世の中と繋がってるのかもしれない。
ある意味で・・・そう、孤独な職業・・・」

 理解はできますが、そのためには被害者遺族の思いさえも
シャットアウトしなければならないのか。

 1999年12月22日、第五回公判・論告求刑。 
担当検事の酒井(田口浩正)は「死刑」を求刑しました。

 2000年1月26日、第六回公判 弁護側 最終弁論。
弁護側は、犯行には、母親が自殺し父親からも見捨てられた状態だった生い立ちが影響していること、現在は罪を深く反省しており、更生の余地があると訴えました。
「自分が死ぬことによって、奪ってしまった命が戻ってくるのなら、絶対に死ぬことを恐れません」秋山

 傍聴を終え、帰宅した町田は、家族の思い出がつまったアルバムを見た後、
佳織が作った通帳を見つめていました。
そこには、『車の買い替え』、『夏海の学費』、『3人で家族旅行』、
妻の手書きのシールが貼られていました。

 これからも続くはずだった3人の生活、妻が大切にしていた未来は、秋山によって踏みにじられ、突然断ち切られてしまいました。
秋山は佳織さんや夏海さんだけでなく、共に過ごすはずだった町田や祖母や祖父たちの未来をも奪ったのです。
 自分の欲望を満足させるために安易にその生命を奪った秋山に、
その命の重みが裁判の過程で少しでもわかったでしょうか・・・

 耐えきれず、佳織との思い出の場所である夜の海に向かって叫ぶ町田・・・
「佳織ーーーーーーーーー!!」
その声は荒れ狂う波の音に飲み込まれていきました。

 一審の判決公判の1週間前、町田の元を訪ねた北川は、彼が中学生の頃、難病で入退院を繰り返し、医師から長くは生きられない告げられていたことを両親から聞きました。
生きる気力を失っていた町田を救ったのが佳織さんでした。

 結婚後、薬の副作用で諦めていた子どもが授かったけど、
幼い命を失う恐怖に怯えていたこと・・
町田にとって、二人がどれほどかけがえのない存在だったか、
その失ったものの大きさに愕然となる北川・・・

「『死刑』の判決はでないでしょうね。
被害者が二人なら、『無期懲役』が相場だと聞きました。
一人でも二人でも、人を殺した人間が自分の命で償うのは当たり前なのに、
『死刑』は3人以上って条件がつく。
どんな殺され方をしても、数字ですべてが決まってしまうなんて、
おかしいと思いませんか?!」町田
「君の言う通りだ。ただ、この国の司法は、そうなんだよ。
控訴という手段がある。控訴して、高裁、最高裁と戦っていくしかないんだ」北川

「戦って、もし負けたら?
僕は佳織と夏海に、僕は二人に『死刑』の報告をするために、二人の顔にあんな黒い布きれまで巻いて、屈辱の中で過ごしてきたんです!
その結果が『死刑』じゃなかったら、佳織と夏海を守れなかった僕はどうすればいいんですか?!
あれほどの罪を犯した人間が死刑判決を受けないなんて、そんなことあっていいんですか?!
いいんですかっ?!!!」
「がんばるしかない。
横沢弁護士が言ってたように、司法を変えることもできるかもしれない」北川
「死んだ人間が3人なら、確実に死刑になるんですよね・・?」町田

 判決前夜、海で自殺しようとしていた町田は、駆けつけた北川によって発見されました。
「君が死んで何が生まれるって言うんだ?!
佳織さんがどんな思いで夏海ちゃんを産んだのか、
夏海ちゃんが何故、君のところにやって来たのか?考えるんだ!
君の努めは死ぬことじゃないだろ?!
二人のために生きることじゃないのか?!」北川

 岡本たちも駆けつけましたぞ!
「町田・・・」
「すいませんでした・・・すいませんでした!!すいません!!」町田

 岡本たちに土下座して謝る町田の『すいませんでした!』・・・
重くどすぐろい塊を吐き出すような声。
死にたいのに死ねない。
生きていくのも死ぬのも許されない、許したくない・・・

 何としても、秋山を「死刑」にしたい。
「死刑反対」の立場にいる山下は「秋山が死刑になったら、町田さん、あぁ良かったって思うんでしょうか?」と編集長(高橋克実)に疑問を投げかけてましたが、
「あぁ良かった」ではなく、基本、「死刑」じゃなきゃ救われないって私なら思いますよ。
まず「死刑」の判決を与えて、それからなんじゃないか・・って。

 2000年3月22日 山口地裁 第一審 判決公判。
裁判官から告げられた判決は『無期懲役』でした。
公判後の記者会見で町田は・・・

「司法に絶望しました。
控訴上告は望みません。
早く被告を社会に出して、私の手に届くところに置いて欲しい。
私が、この手で殺します。

 判決の瞬間、僕は司法にも、犯人にも負けたと思いました。
僕は妻と子を守ることができず・・・仇をとることもできません。
僕は無力です。
妻と娘に何もしてあげることができません。
司法に、これほどまでに裏切られると、もう何を信じていいのかわからなくなりました。結局・・・敵は被告人だけじゃなくて、司法だったように思います。

 遺族だって回復しないといけないんです!被害から。
人を恨む、憎む・・・こういった気持ちを乗り越え、また優しさを取り戻すには、死ぬほどの努力をしないといけないんです!」

 『この会見で彼が語った言葉は、それから8年にも渡る長い闘いに向けての宣戦布告でもあった』北川

 やはり、被害者と被害者遺族が味わっている苦しみと加害者の受ける刑が釣り合うとは思えない。
せめて『死刑』にして欲しい。
加害者の事情(生い立ちや状況)を考慮するんだったら、被害者遺族の状況もしっかりと考慮して欲しい。
 そもそも、「罪」と「罰」の秤に「更生」も一緒に乗せるから、おかしくなるんじゃ・・
「更生」はもちろん大切だけど、罪の認識と償いを見据えてから、
初めて見えてくるもんじゃないのか・・

 なぜ君は絶望と闘えたのか 後編
 
 ☆ 2019年10月13日再視聴後の追記。

 何度見ても役者さんたちの魂のこもった演技に引きこまれる。
北川と会った時だけ人間らしい表情に戻れた町田・・・
生きることが辛い。
その町田の終わりのない苦しみ・怒り・後悔・やるせなさ・無力感の前に
涙を流すことしかできない自分がいました。
生きることは闘いだ。誰もがそう思う瞬間はあるでしょう。
でも町田さんの闘いはあまりにも辛く長く出口の見えないものだった。

 加害者との闘い、司法との闘い・・
そして自分が人間に戻るための闘い・・・

 自分を責め続け死へ向かう思いからなんとか留まることができたのは
町田を支え共に闘ってくれたひとがいたから。
血の涙を流した町田の闘いをを支えるひとたちの闘いもあった。

 裁判は誰のために、何のためにあるのか。
加害者へ罪の認識を促し、その罪の深さと状況の認定、と罰・・それだけではない。
被害者遺族が抱えてきた思い・人生の重さをくみ取り反映させるにはどうしたらいいのか・・
罪を犯すのも人間、裁くのも人間、救えるのも人間・・なのでしょうか。

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こんな長くなっちゃった記事を読んでくださってありがとう<(_ _*)>
WOWOWだから、見る人も限られてるだろうけど、一人でも多くの人に見て欲しいドラマだと思いましたわ〜

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matakita821 at 16:55│Comments(0)2010年ドラマ 

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